「砂の祭典」にかける想い

「砂像があって花火が生きる」vol.04

管理人

吹上浜砂の祭典30回を記念して、これまでの砂の祭典を支えてこられた方々の想いをインタビューしました。今回は、vol.04をご紹介します!

六葉煙火」代表取締役社長 古閑(こが)潔さんと「砂の祭典」を担当するのは4回目の橘薗(たちばなぞの)光宏さん

「砂の祭典」の魅力の一つが、ゴールデンステージ期間中に毎晩行われる「音と光のファンタジー」。音楽に合わせて、花火と照明が夜空と砂像を彩る圧巻のイベントです。この花火を担当してきた川辺の花火メーカー「六葉煙火」を訪問しました。

インタビュー・文=砂の祭典広報部会 クボ

「六葉煙火」代表取締役社長 古閑 潔さんと橘薗 光宏さん

音楽、花火、照明のコラボ

古閑:社長の古閑です。「砂の祭典」の仕事は、この橘薗君がメインで担当しています。

橘薗:入社して8年目の橘薗です。「砂の祭典」を担当するのは4回目ですかね。

ーー今回の「砂の祭典」は30回記念大会ということで、これまでの歴史を振り返るという意味合いもあるんですが、六葉煙火さんが「砂の祭典」に関わるようになったのはいつからなんですか?

古閑:2003年からです。「砂の祭典」の花火を担当させてもらった当時は、ちょうど電気点火を取り入れた頃にあたります。スイッチ一つで打ち上げができる仕組みで、それまでは手で点火していました。電気点火といっても打ち上げスイッチを押すのは人の手ですから、ミュージックに合わせて打ち上げるのに苦労しました。

ーーその当時から音楽と花火がセットだったんですね。でも花火を点火して打ち上がるまでタイムラグがありますよね。どうやって音楽に合わせるんですか?

古閑:ミュージックを何度も何度も聞いて、点火のタイミングを体に刻み込むんですよ。打ち上げまでのタイムラグを折り込んで。それでも人がやっていることだから、ポンポンポンポン、ってボタンを押してるうち「あ、爪が引っかかった!」とかいってタイミングがずれちゃったりね。今では「ファイヤーワン」という花火と音響をコンピュータ制御する仕組みがあって、ボタン一つでミュージックとドンピシャ合うようになってます。

ーー「砂の祭典」では音楽や照明に合わせて花火を打ち上げているわけですが、どうやってつくり上げていくんですか。

橘薗:MBCサンステージ(※)がまず音源を選びます。うちからも要望は伝えますけど。それで「砂の祭典」のイベント部会での決定を経て15分くらいの音源が作られますから、それに合わせて花火を構成していくという順番になってます。そして今度は、MBCサンステージの方で花火の構成に合わせて照明を作っていきます。

※MBCサンステージ 「砂の祭典」の舞台や音楽、照明を担当。

ーーなるほど。音楽、花火、照明、という順番で作られるんですね。それぞれのやりたいことが衝突するとかいうことはないんですか。

橘薗:いやー、むしろお互いを補い合ってますね。例えばミュージックはサビもあれば静かな部分もあるわけですから、そこを花火や照明で補うとか。赤い花火を使ったら、それが映えるように照明の方は青を使ってくれたり、花火だけではできない雰囲気が作れますよね。

ーーもっとこうしたいな、と思うことはありますか?

橘薗:欲を言えば、もっと大きい花火を上げたいと思うことはありますね。花火の大きさによって法律で保安距離が定まっているのでなかなか出来ないことですけどね。でも毎年、打ち上げの現場との兼ね合いや安全に配慮しながら、新しい演出をやっていきたいなと思っています。

花火だけじゃなくて砂像に目が行くような演出を

ーー新しい演出というと、例えば今年はどんなのがあるんでしょう?

橘薗:それは今は言いたくないですね! ぜひ会場でご覧ください(笑) でも「砂の祭典」での音楽花火は15分もあるので、その15分があっという間に感じるような演出をしたいと思っています。

ーー音楽花火では15分って長いんですか?

古閑:15分は長いですよ。他だと長くても4分とか。

橘薗:そうです。音楽花火としては長い15分間なので、「その世界に入り込ませる」工夫というか、音響や照明との協力、そして砂像も活かしながら、15分を楽しんでもらえればと思っています。「砂の祭典」での花火はメインではなくて、あくまで主役は砂像。会場の中心にあるメイン砂像全体をつかった演出を考えています。

ーーその演出を考えるにあたって、イメージしていることはありますか?

橘薗:そうですね。今年のテーマが「サンディー君と童話の世界」なので、サンディー君の甲羅が緑色だから緑色の花火を使おうとか、あとウミガメだから海のイメージで水色の花火を使ってみようとか、そういうことでしょうか。

ーー「砂の祭典」の花火の見所はどういう点ですか?

橘薗:「砂の祭典」の「音と光のファンタジー」は花火大会じゃない、ってことですかね。花火が上がるので当然花火に目が行くとは思うんですが、砂像あってのイベントですから、花火だけじゃなくて砂像に目が行くような演出をしたいな、といつも思っています。

古閑:そうそう。砂像の後ろでドカドカとまん丸の花火が打ち上がるんじゃなくて、砂像を活かした特殊効果の花火が多いんですよ。他の花火大会と比べて、「砂の祭典」の場合は特殊効果がかなり多い。

ーー「特殊効果」というと例えばどういう...?

橘薗:砂像のそばから立ち上がる「火柱」とかですね。この「火柱」は音楽のベースの音に合わせやすい演出でもあるんです。上に打ち上がる花火だと、点火から開くまで3、4秒かかりますから、コンピュータ制御とはいってもずれる時があります。その点こういう特殊効果の花火はリズムにほぼ間違いなく合います。

古閑:他にも、パトカーのランプみたいにチカッチカッと明滅する「フリッカー」というものなんかもあります。

特殊効果の例(火柱)
*特殊効果の例(火柱)。

ーーなるほど。大玉は上がらないけど特殊効果の花火を使って演出を工夫している、ということなんですね。こういう、音楽、花火、照明がコラボした演出というのは他の花火大会でもあるんでしょうか。

古閑:他にはないですね。うちでやっている現場では「砂の祭典」だけです。まず、照明をあてる対象が他のところではないですから。そういう意味では「砂の祭典」の花火は特別なイベントです。

「安全最優先」が誇り

ーー次に、六葉煙火さん自身について伺いたいと思います。私の地元は大浦ですけど、「大浦祭り」の花火も六葉煙火さんが上げていたりして、名前だけは前から知っていましたが、こうして会社まで来たのは初めてでした。まずこんな山奥にあると思いませんでした(笑)いつからある会社なんでしょうか。

古閑:(あちこちの資料を見回しながら)えーと、創業は昭和56年です。

ーー六葉煙火さんと言えば、九州では唯一3尺玉を上げることで有名ですよね。

古閑:「きばらん海」枕崎港祭りですね。でもうちが3尺玉を上げてる、っていうことではなくて、あくまで市民の皆さんが協賛金を集めてやっていることで、うちとしては「3尺玉を上げさせてもらっている」と言ってます。ちなみに西日本で3尺玉が上がるのは、枕崎と高知しかないんですよ。

六葉煙火は川辺の霧深い山奥にありました
*六葉煙火は川辺の霧深い山奥にありました。この敷地に社屋が点在しています。

ーー会社の特色や他の花火メーカーと比べて誇れる点というのはありますか?

古閑:それは「安全最優先」に力を入れているということですね! 例えばうちでは100%遠隔点火です。遠隔点火の技術は10年くらい前に確立しました。お客さんの安全はもちろん、打ち上げる人の安全もしっかり確保する、そういう考えでやっています。

ーー安全が優先っていうと、当たり前みたいな感じもするんですけど、花火業界ではまだそうなっていないということですか?

古閑:残念ながら、まだ手で点火するなど安全がないがしろになっているところも多いですね。

ーーなんで危険なのがわかっていながら手で点火するんですか?

古閑:手で点火する方が手間がかからないからです。遠隔点火をするためには、導火線もいるし、配線や点火装置などいろいろ準備しなければならず、手で点けるのに比べて5〜6倍の工程を要します。もちろんその分コストもかかる。だから安全が後回しになるわけです。また、中国産の花火を仕入れて打ち上げる業者も多い。中国産の花火は安価だけど事故もたびたび起こって、安全面に不安があります。うちも昔は中国産の花火も使っていましたけど、減らす方向でやってきてます。自社の手作りの花火を中心にやっていますから原価も高いんですよ(笑)

橘薗:「砂の祭典」会場で打ち上げる花火は、全部自社製のものです!

ーーそういう意識でやっていらっしゃるということは、六葉煙火さんはこれまで事故ゼロ...?

古閑:ではないんです。そもそも、なんで「安全最優先」になったかというと、私の親父が花火の製造中に事故にあってます。その翌年には従業員も事故にあいました。それで、ちょうどその頃、私は大学を卒業して会社に入ったんですが、全国でも先駆けて安全対策に取り組んでいた新潟の片貝(かたがい)煙火という会社に行ってこいといわれ1年間そこで修行しました。17年前のことです。そこでは、例えば玉皮(たまがわ)といって火薬を包んでいる殻があるんですが、それが自然に分解されるものを使っていたり、環境面でも工夫していました。修行を終えて帰ってきたあたりで、「砂の祭典」に取り組むようになったんですよね。

ーーということは、古閑さんのキャリアの当初から「砂の祭典」に携わっていたということなんですか。

古閑:言われてみれば、そういうことになりますね。

ーーそうして安全対策に力を入れて、「砂の祭典」では事故がないということなんでしょうか。

古閑:そうでもなくて、祭典会場はとにかく浜からの風が強くて、それで今まで想定外の事故がありました。玉皮がポカっと割れる「ポカもの」という花火があるんですが、この割れた玉皮が風で流されてお客さんの方に飛んでしまい当たってしまったという事故がありましたし、他にも火薬の燃えかすの砂みたいになったやつが風に乗って飛んでいってお客さんの目に入ってしまい、病院に連れて行ったということもありましたね。こういう事故は他の現場では考えられないようなことなんですよね。今では「ポカもの」は極力使わずに、玉皮が粉々になるタイプの花火を使うようにしています。

ーー今は「砂の祭典」へ向けた花火製造はどんな具合ですか。

橘薗:追い込み中です。

ーーどのくらいの花火が打ち上がるんでしょうか。

橘薗:特殊効果の花火も入れたら、400〜500くらいの花火になります。それがゴールデンステージの期間毎日上がります。1日だけのイベントじゃないのでかなりの量を準備しないといけないんです。

製造の現場
*製造の現場も少しだけ見せていただきました。

花火だけ上がってもしょうがない

ーー最後に、六葉煙火さんが「砂の祭典」の花火をどういう意気込みでやっているのかを伺いたいのですが。

橘薗:やっぱりずっと続くようなイベントになってほしくて、それに裏方ながらうちの会社も共にやってけるように継続していけたらいいなと思ってます。やっぱり継続することが一番難しいですから。その一助になりたいですね。

古閑:私としては、リターン客を摑む演出、つまり2度3度行きたいよね、って思われる演出を心がけていきたいですね。

ーーそれは私もすごく思っていることです。広報部員の仕事をする中で、鹿児島市の人なんかにも「砂の祭典」の印象をいろいろ聞いてみたら、「面白いとは思うけど、まあ一度行けばいいよね」っていう認識の人が多いんです。どうしたら2度3度来て頂けるのかなって思います。

古閑:私も花火を打ち上げるためじゃなくて、イベントの運営者側の気持ちになって「砂の祭典」の会場を歩き回るんです。どうしたらお客さんが来るだろうって。ディズニーランドみたいに魅力的なキャラクターがいればそれだけでお客さんは来るだろうけど、サンディーくんやスナミちゃんはそういうのじゃないしね。

※スナミちゃん サンディーくんの妹だが、実は非公式マスコット。

ーーよくスナミちゃんまで知ってますね!

古閑:とにかく、イベントは花火だけではダメだっていう考えがあります。いろんな工夫があって花火も生きる。それで、私は大隅の方でやってるイベントでやる軽トラ市に枕崎のカツオの腹側を売りに行くんですよ。飛ぶように売れますよ。イベントの広報をする上でも「カツオの腹側もあります」って出せて集客にもなるわけだから主催者側から「今年も来て下さい」って言われます。

ーー花火屋さんなのに花火を上げるためじゃなくて、カツオの腹側を売りにいくっていうのが面白いですね。

古閑:元々は商工会青年部の活動として行ってたんですが、現金商売の面白さに目覚めたっていうのもあります。でも集客がしっかりできて祭りが盛り上がらないと、花火だけ上がってもしょうがないっていう思いなんです。私が修行した新潟の片貝、そこは2千人くらいの街なのに、「片貝まつり」(※)には20万人が来るんですよ。もちろんいろいろ工夫してます。やっぱり祭りが上手。そこを見て来たから、花火だけじゃなくてイベント全体を考えて集客しないといけないっていう気持ちがあるんですよね。

※片貝まつり 三尺玉発祥の地として知られた片貝町でおこなわれ、世界最大とされる四尺玉の打ち上げなど町中が花火一色となる熱狂的なお祭り。

取材:2017年4月17日

インタビューを終えて
花火屋さんなのに「イベントは花火だけではダメ」という考えを持っているところがすごく心に残りました。ちなみに鹿児島に花火メーカーは六葉煙火を含め3つしかないそうです。砂像と花火、そして音楽と照明がどうコラボするのか。今年の「音と光のファンタジー」も楽しみです【クボ】。